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2022年1月11日火曜日

さんさんのお話(6)菜の花の沖の主人公とさんさん

 菜の花の沖の主人公嘉平は自分が所属する若集組、それが淡路島のそのまた離小島で暮らしていた嘉平にとっては所属する若集組、それは自発的に入るものではなく生まれた場所によって一五歳から二十歳ごろまで自動的に加入を強制されるもので組の意見というものがイコール世間様のご意見でありそれは全世界、いや部落から外に出ればどこそこの誰という身分証明を失って収入の道を閉ざされることになる。組を離れるということは浮浪者と同じ、と言ってもいいでしょう。

自分で判断してよしとなったら実行するという人生の指針を持った嘉平はこのルールに従う事をよしとしないで恋人のおふさに落ち着いたら便りをよこすからと言い置いて村抜けをする。今で言うならヒッチハイクと野宿そしてほとんどの距離は歩きで淡路島から兵庫へ行きそこで保証人に立ってくれる人を見つけて廻船問屋に水手として雇われることに。

私も顧みて恥ずるところなくんば一千万人と雖も吾往かんなんて孔子様の論語なんか持ち出して東大か一橋、それでなければ学費は一切出さない、いや家を出ろなんて言う親、今から半世紀も前にはそんな親もいたんですよ。親と子は大名と家臣と同じみたいに考えて“家”と言うグループ”の発展のためには各人は自我を捨てて、なんて言うのが罷り通っていた。

でどうしたですって。岩波文庫一冊と下着一揃い詰めた通学バッグとポケットに小遣いの残り、確か2000円ぐらいだけだったかな、持って夜明けの街に一人。

いや少々悲壮だったですね。安宿でも泊まれば飯食う金がなくなる、駅のベンチでねれば飯食える代わりに風呂の入れない、さぁどっち?

東京の冬の寒さが身に染みましたがまず飯と寝床を確保しよう。人生をそこから考える人はそう沢山はいない。住み込みで今日からでもいいと言う下町の町工場、ウエーハースを焼く工場でしたが一枚一枚手焼き。知っていましたウエーハースってでんぷんを水に解いて電熱で熱くした鉄板に挟んで焼き上げるんです、がこれは飯風呂寝床つけて今夜からでもって破格の条件なわけでこればんざぁーいだったんですがやってみると同じことの繰り返しだけで全然面白くない。

面白くないだけじゃなくてこれじゃ大学に復学する、これも知らないでしょうね休学と退学の違い。休学は授業料半額払い続けなければならない、退学は学籍が削られるので三年生と四年生で退学したら編入試験受けて三年から再編入できるしその間の学費負担なし、その復学する学費を貯める金がほとんどもらえない。

まだ自分の能力のどこが金に変えられるのかわからないままの十七歳、山岳部にいた経験からまぁ体力なら、ってんでほらよく言うでしょ「追い詰められたら男はどかちん女は…」って。急場を救ってくれたウエハース屋の親方へのお礼の気持ちで半年働いて今度は陸上自衛隊。これ楽しかったんですよね。男の子っていつでも戦争ごっこが大好き、おまけに世間をいくら見回しても自衛隊が生身の人間に鉄砲撃つシーンてのは考えにくい、いやられない。要するにごっこ、で面白い面白いで日を過ごしていたら3ヶ月後の基礎訓練終了時は三百人だったか五百人だったかの同期新兵のトップに卒業式の時は残りの新兵たちが整列する前に立ってこの私が指揮官ドノ。ははは、呆れるねこりゃ。

上官も私の学歴を知って「練馬駐屯地に配属できる用の手を回すからなんとか卒業して幹部自衛官を目指せって」まぁ定年まで自衛隊にいるかはゆっくり考えるとしてなんのこっちゃ私が書いた人生のスタートは

想っていた以上に日が当たってきたじゃないですか。

嘉平さんが500石船に下級船員に雇われて初めて沖に出て朝日に向かって柏手を打った気持ち、まさに私のそれに二重写しでありました。

オーストラリアの菜の花畑。
 https://www.abc.net.au/news/2018-12-24/pic-of-the-week---canola/10635680?nw=0


7 件のコメント:

Mikija さんのコメント...

こんにちは、さんさん。
さんさんのお話を読んでいて、ああ、若いうちから独り立ちさせるのは後々の人生にとても大事なことだなあと思いました。ここラトビアではまあ、親が子の面倒を見るのは18までです。私たちの友人たちも例外なく18になったら子供には自立してほしいと考えています。それだけの教育はした、だから後は自分でやってけ。大学で勉強したいのならその分の援助はしよう。でも自分で稼ぎながらパートナーを見つけて独り立ちせよ、という感じです。

さんさん さんのコメント...

ああ、まさにそれ私が実行してきたことでありますし一人娘に言っていたことでもあります。
高校を出るまでは全面的に応援する、オーストラリアの社会はよく分からないので若い女性が大失敗を犯さずに人生を渡っていくのに必要な知識は女子校の寄宿舎に入れてあげるからそこでオネェ様方に教わりなさい。と言ってブリスベーンの寄宿女子校へ。田舎より都会の暮らしに憧れていた彼女はルンルンで家を離れ中学高校と寄宿舎で過ごし手取り足取りでオトコの見分け方世の中の歩き方を教わって高校を出たら完全自立。その後何回か彼氏を取っ替えて最終的に自分で獣医さんの今の旦那をとっ捕まえて結婚。結婚式は我が家のベランダで、披露宴はカミさんの手料理でちゃっかりとタダで済ませましたっけ。
で今は彼女の地所の隅に隠居所を立ててお迎えが来るのを待つ、とまぁここまではうまく運んでおりますが、この先はどうなりますか。

megmeg さんのコメント...

あら、昨日のコメントが送信されてませんでした。ガッカリ・・もう、同じようには書けない。
菜の花の沖、読み始めました。オーストラリアの菜の花の写真、グレーな季節の日本人には眩しく元気が出ます!
ビタミンカラーですね。
50代の子供が80代の親に何もかも面倒見てもらってる日本は気持ち悪いですね。親が死んだら年金入らなくなるから生かしてくれ、と医者に言うそうですよ。
しかし、さんさん様。体力に自信があったとはいえ大変な訓練の中トップとは。ますますただ者じゃないのが実感されます。そして、日本の国は狭すぎて・・でしょうか?

紫陽花 さんのコメント...

菜の花畑もオーストラリアともなると日本と規模が違う!とその広さにびっくり。一面の菜の花にパワーをもらえそうです。

子供の自立の話は耳が痛いです。高校どころか”30までは家においてやる”と言っていた父親の言葉は軽く聞き流されて、働き過ぎるほど働いてはいるものの家から出て行く気はほとんど無し、という者が若干一名が我が家にはいます。むしろ私の方が”自立したい~””独り暮らししたい~”心境です。早く自立した婿さんは成功例だと言えますが、でも親は年を重ねてきている今となっては戻って来てほしい願望が強いらしく、世の中上手くいかないものです。
さんさんは平凡などこにでもいる日本人というのとは一味違った道のりを歩んでこられたようですが、今は心穏やかな日々を過ごしていらしゃることが何よりです。


さんさん さんのコメント...

紫陽花さま
菜の花畑、これみんな食用油になって日本に行って天ぷらやらトンカツの揚げ物に使われるのじゃないですかねぇ。
オーストラリア人の発想では畑ってものはこういうデカさでトラクター入れてバーっと一気に作業するものであるという思い込みが強い。日本の水田と違ってどっか南の方では米も作っておりますが直播で飛行機で種まきするとか。
家という集団を離れて”自立”するのがいいのか家族という仲間に包まれながら社会人という任務を果たしていくほうがいいのかなかなか難しいところですよね。

ハリーポッターの中にもクリスマスにナギニ(悪の大王の化身)に噛まれて入院したロンのお父さんを見舞いに行くシーンがありますが病院の受付でハリーの前に並んだ包帯巻いた人に受付の人が「またいつものクリスマス時期の家族ゲンカ?」って聞くところがあります。バラバラに離れた家族が一緒に集まって食事するクリスマス、その時決まって騒動が起こり中には殺人まで、はオーストラリアでもよく聞く話。
「俺はこっちへ行く」「お前そっち行ったって…だからうだつが上がらんのよ」これが喧嘩の元。
個人主義も若衆宿も一長一短ですなぁ、ほんと人間て生き物は。

さんさん さんのコメント...

megmegさま
ご投稿うれしく拝見いたしました、管理人さまから「投稿にはすぐにお返事して」ってダメ出しが入りました、ごめんなさい。
年寄りってのはこういうとき便利なもので鼻水啜りながら(ほんとに鼻水が1日中垂れるんです、なんでも肺からの湿った呼気から湿気を回収する機能が歳のせいで低下している、病気じゃないよってGP が言っていました)「この指がうまく曲がらんでノォ…グダグダグダ」なんて言っているとそれで通っちゃう、ははは。

別段すごいことしたわけじゃないんですよ。ごっこ遊びが嬉しくって子供が暴れている感覚で過ごしてたら「お前指揮官な」「へっ?」 てなものでした。

せっかくボーズになってお寺まで預けられたのに海外に出る決心をしたドタバタはこの次の次あたりに書きます。今少々お待ちください。
菜の花の沖、読み始められたとのこと、第一巻は嘉平がイジメ抜かれる話がこれでもかと詰まっていますが司馬さんにすれば「集団をつくり新参者をいじめる、それが日本の文化の基礎だ」とかいておられるその説明のつもりなのだと。
二巻以降はもっとスッキリした話になって気分壮大になりますよ。

megmeg さんのコメント...

はい、これでもかと主人公がいじめられています。日本人だけではないのでしょうが、コミニティがあっての個人でないと生きていけない。堺に出てもまだまだ辛い。自分を認めてくれる仲間ができて、ちょっとほっとしましたが。今の日本もいじめは集団が個を標的にしますし、文化か〜、難しい。2巻を明日から読みます。文庫で読んでいます。まぁ、おふささんについては男性のこうあってほしい感がしてしまいますが。
私は、もちろんコメントのお返しは嬉しいのですが、さんさん様にも管理人さんにも無理はしていただきたくはありません。鼻水、うちの母もですよ~、仕方ないよと言っても風邪引いたせい(一年中)にしています(笑)
さんさんのお話、司馬さん読んで待ってますね。